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2021.11.29

コラム 【不安症のお薬 〜不安症に抗うつ薬!?〜 】

おとなの方でも子どもさんでも不安症の方は珍しくありません。
不安症は女性で男性の約2倍の患者さんがいらっしゃるといわれます。
初発時期は意外かもしれませんが早く、小児期〜思春期〜成人期早期です(Lancet, 2016)。

不安症は見過ごされがちであるため注意が必要です。
これは、不安症の症状が「不安だ」という感覚よりも、痛み、息苦しさ、不眠といった
主にからだの症状として患者さんご本人に受け止められることがあるためです。
とりわけ、子どもさんは、「不安」という感情を認識し、言葉にする発達段階に達していないため、
からだの症状、たとえば、「おなかが痛い」「気持ちが悪い」「あたまが痛い」や
行動面の症状(怒りっぽい、イライラしている)に不安症状が現れやすくなります。

不安症の治療は基本的にふたつ、薬物療法と心理精神療法です。
本日はお薬のお話しをいたします。

不安症にSSRIあるいはSNRIという抗うつ薬を処方されることに驚かれる方が時々いらっしゃいます。
“この医者は、うつ病のお薬=“強い”お薬を不安なんぞに出すのか?”と心配されるのです。
そして、しばしば「抗不安薬とか精神安定剤の“軽い”薬がいい」とおっしゃいます。

しかし、実は、国内外のエビデンス(医学的根拠)のある不安症の治療ガイドラインでは、
抗不安薬であるベンゾジアゼピン系薬剤は即効性もあり有効ではあるものの、
治療で用いられる範囲内の用量であっても連用により依存が生じるといった問題があるため、
推奨されていません。

不安症の薬物療法で推奨されているお薬は、
SSRI(選択式セロトニン再取り込み阻害薬)あるいはSNRI(選択式セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)のふたつです。

SSRIやSNRIは、脳の神経細胞のシナプス終末から
放出された神経伝達物質(これがセロトニンやノルアドレナリンです)の再取り込みを阻害することで
神経伝達物質の働きを増強させます。
その結果、不安や抑うつ症状、不眠といった不快な症状を改善させます。
ただし、SSRIやSNRIには即効性がなく、効果が現れるまでに2週間程度かかります。

うつ病に用いるお薬が“強く”、
不安症に用いるお薬が“弱い”わけではありません。

不安症の治療には、SSRIあるいはSNRIを主軸に、
必要な場合に限り、依存などの副作用に十分に注意を払いながら、
抗不安薬(症状に応じて少量の抗精神病薬を選択する場合もあります)を用いる投薬方法が一般的です。

不安症に抗うつ薬を用いるのだな、とご理解いただければ幸いです。

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