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2022.01.10

【鉄分と亜鉛によるうつ病の治療サポート】

コロナ禍の中、うつの症状に苦しまれ、当クリニックを訪れる方が多くいらっしゃいます。

今、ご自身が置かれている状況に対する疲れや不安など、環境的な要因からうつの症状が現れることがあります。

はやかわこころのクリニック一社では薬物療法を軸に、うつの治療を行います。薬物療法といっても、できる限り少量のお薬でつらい症状をやわらげ、生活の質を向上させることを目標としています。

薬物療法を行う場合、血液検査で肝臓や甲状腺の機能を確認しながら経過をみていきます。その他にも、心とからだを健康に保つ役割のある鉄分や亜鉛の量もはかります。

また、鉄分や亜鉛の摂取量を食事やサプリで増やすことで、うつ症状をやわらげてもいきます。

鉄分の効果

鉄分は正常な体の機能を保つのに欠かせないミネラル分です。赤血球が酸素を運ぶのに必要なヘモグロビンを形成するのに鉄が必要となります。

鉄分が不足すると赤血球が縮小し、うまく酸素を体にまわすことができなくなってしまいます。この状態を鉄欠乏性貧血といいます。主な症状としては疲れやすい、めまい、立ちくらみや蒼白い顔色、などです。

ではなぜ鉄分不足がうつの症状に繋がってしまうのでしょうか。実は、快感情や意欲に関係する脳の伝達物質であるドーパミンの生成には鉄分が必要なのです (1)。

ドーパミンが不足すると慢性的な疲れ、意欲がわかない、不安や憂鬱感、集中力の低下などがみられます。

ドーパミンはタンパク質を多く含む食材から得られるチロシンというアミノ酸によって作られます。しかし、チロシンか

らのドーパミン生成や正常に脳細胞がドーパミンに反応するためには鉄分が必要なのです (1,2)。

当院で行う血液検査は、鉄分の貯蔵量を示すフェリチンの量をはかって貧血状態を把握します(3)。

亜鉛の効果

体内の神経伝達物質の中でも一番多いのがグルタミン酸です。グルタミン酸には神経を興奮させる効果があり、脳の活性化や、神経の成長および神経のコミュニケーションを促すのに必要な物質です。認知力や気分のコントロールと深く関係しています。そのグルタミン酸の働きのバランスを

保つのを支えるのが亜鉛なのです(4)。

うつ病と診断された人は、そうでない人と比べ血中の平均亜鉛量が14%下回っていること、さらにはうつが重症になるにしたがって亜鉛量が減少していくことが報告されています(5)。

オーストラリアのニューキャッスル大学で行なわれた研究では、男女問わず亜鉛の摂取量が一番多かった人のうつの発症リスクが30%から50%も低かったと報告されています(6)。

体内の亜鉛量とうつの症状が関係していることが各研究結果から推測できます。

 

最後に

お薬やサプリを使ってうつ病を治療する場合、医師の支えは必要不可欠です。

副作用なども報告されていますので、治療の経過やお身体の調子などを、血液検査を用いながら、しっかりと治療していくのが最善策かもしれないですね。

お薬とサプリ以外の方法でも、うつのつらい症状をやわらげることもできますので、ご自身にあった方法で治療に励んでみてはいかがでしょうか。

○大切な人とのコミュニケーション、信頼できる人に本音を言ってみること

○マインドフルネスや深呼吸の習慣を毎日取り入れること

○毎日三つありがたいことをノートに書き留めてみること

○体を動かしてみること外に出て日光を浴びてみること

○毎日同じ時間に寝てみること、とりわけ毎日同じ時間に起きること

○栄養バランスのとれた食事やアルコールを控えるのを心がけること

などのたくさんの対処方法があります。是非ともお試し下さい。

文献
(1) Youdim, M. B., Ben-Shachar, D., Ashkenazi, R., & Yehuda, S. (1983). Brain iron and dopamine receptor function. Advances in biochemical psychopharmacology, 37, 309-321.
(2) Erikson, K. M., Jones, B. C., Hess, E.  J., Zhang, Q., & Beard, J. L. (2001). Iron deficiency decreases  dopamine D1 and D2 receptors in rat brain. Pharmacology biochemistry and behavior, 69(3-4), 409-418.
(3) Knovich, M. A., Storey, J. A., Coffman, L. G., Torti, S. V., & Torti, F. M. (2009). Ferritin for the clinician. Blood reviews, 23(3), 95-104.
(4) Nowak G., Szewczyk B.: Mechanism contributing toantidepressant zinc actions. Pol. J. Pharmacol., 2002,54, 587–592.
(5) Swardfager W, Herrmann N, Mazereeuw G,  Goldberger K, Harimoto T, Lanctôt KL. Zinc in depression: a  meta-analysis. Biol Psychiatry. 2013 Dec 15;74(12):872-8. doi:  10.1016/j.biopsych.2013.05.008. Epub 2013 Jun 24. PMID: 23806573.
(6) Vashum KP, McEvoy M, Milton AH, et al. Dietary zinc is associated with a lower incidence of depression: findings from two Australian cohorts. Journal of Affective Disorders. 2014 Sep;166:249-257. DOI: 10.1016/j.jad.2014.05.016.)
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