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コラム【双極性障害 〜お薬は必要ですか?〜 】
結論からいえば、双極性障害の治療に薬物療法は必須です。
エビデンス(医学的根拠)のある(広い意味での)カウンセリングには心理教育、認知行動療法、家族療法などが推奨されていますが、
補助的な治療として位置づけられています。
双極性障害とは躁状態とうつ状態の気分の波を慢性的に繰り返す疾患です。
双極性障害はI型とII型に分類され、
[I型] 明瞭な躁病エピソード+抑うつエピソード
[II型] 軽躁病エピソード+抑うつエピソード を呈します。
I型では気分の波を繰り返すうちに脳の実質に変化を来し、認知機能障害を進行させることが示唆されています。
このため、再発を防ぎ、社会機能を維持するためには躁/うつ状態にない時期にも一般的に内服を継続します(精神医学, 2020)。
II型では抑うつエピソードが主体になります。
診断基準上、軽躁病エピソードは周囲にもわかる程度(にはっきりしている)とされるものの、
実際には周囲にもご本人にも「精神症状」とは受け取られていないことも多いものです。
ちょっと怒りっぽい、イライラしやすくなる、いつもより意欲的になるくらいの認識に留まるケースがあります。
双極II型障害は、決して珍しい精神障害ではありません。
I型障害よりも躁病エピソードが軽いものの、
多くの場合、より長期にわたる抑うつエピソードを特徴とするため(Bipolar Disorders, 2008)、
少なくともI型障害と同等の生活への支障をもたらすことが明らかになっています(Journal of Clinical Psychiatry, 2007)。
双極I型障害では多くの知見と治療のエビデンスが集積されている一方、
II型障害ではまだ適切な治療法のエビデンスが十分とは言えません。
さて、推奨される治療薬は、
I型では、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など)、抗精神病薬(クエチアピン、アリピプラゾール、ルラシドンなど)を
単剤あるいは2剤以上を併用します。
II型の薬物治療は、上述したとおり現時点ではエビデンスが十分とは言えないものの、
抗精神病薬(クエチアピン)、気分安定薬(リチウム、ラモトリギンなど)を用います。
II型の双極性障害の方がうつ状態にある場合には、第一選択薬ではありませんが、セルトラリン、ベンラファキシンといった抗うつ剤を用いることもあります。
ただし、双極性障害の方のうつ状態に抗うつ剤は第一選択薬にはなりません。
少し意外にお感じになられた方もいらしたでしょうか。
I型の双極性障害では、抗うつ薬の単剤使用による躁転(躁状態に転じること)の問題をはらむためです。
一方、本邦における実際の臨床では双極II型障害には抗うつ薬が使用されることは珍しくありません。
近年の研究では抗うつ剤のSSRIやSNRIの有効性を示唆するものもあります。
しかし、双極II型障害については過剰診断の問題も指摘されていますので、
主治医と相談しながら適切な診断と投薬を検討していくことが肝要ですね。